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⑥なぜパワハラはなくならないのか

今回は、来年4月から中小企業にもパワーハラスメント対策が義務化されることを踏まえて、『なぜパワハラはなくならないのか』、というテーマでお話してみたいと思います。

現状はどうでしょうか?

改正された労働施策総合推進法(その一部がいわゆる「パワハラ防止法」と呼ばれています。)により、大企業では2020年から職場におけるパワーハラスメントについて、事業主に防止措置を講じることが義務付けられました。マスメディアでもハラスメント問題が取り上げられることが増え、世間ではパワハラはいけない、モラハラはいけないと多く方が認識しているはずなのに、個別労働紛争解決制度施行状況をみますと、ここ1、2年はコロナの影響もあって一時的に解雇の相談も増えてはいますが、労働相談件数で「いじめ・嫌がらせ(ハラスメント問題)」が令和2年度までで9年連続でトップとなっています。

つまり、現状ハラスメントは減っていません。なぜでしょうか。

ハラスメント問題が生じやすい社会的背景

➀経営環境・職場環境の変化
・競争の激化(グローバル化)により、社員のプレッシャーが大きくなっている
・正社員、パート、派遣、上司、取引先、単身赴任、取引先など、多様多様で複雑な人間関係と力関係が混在している
②労働者の変化
・年功序列、終身雇用から成果主義、能力主義への転換に伴い、転職への抵抗感が希薄化、労働市場の流動化、ワークライフバランスを大切にする考え方へ変化
・価値観の多様化や教育のあり方も変化し、またコミュニティの崩壊や、親以外に怒られた事がない、気が合う人としか付き合ってこなかったという世代が増え、ストレス耐性自体が弱まってきている
③ハラスメントに対する社会的認知度の向上
・ハラスメント防止措置義務化(法律化)による認知度のUP
・ハラスメントへの認識の定着、労働者の権利意識の向上、インターネットの普及、マスメディアの報道

このような社会的背景が、ハラスメント問題が生じやすい要因となっていることは、実際に否めません。

パワハラをする人は・・・

前項で述べましたように、確かに昔に比べて労働者の意識が変わった、訴えやすい環境になったというのは間違いありません。それでは労働者がオーバーに訴えているだけなのでしょうか。実際にはパワハラは少なくなってきているのでしょうか。いいえ、実態はまったくそうではありません。なぜでしょうか。

それは、パワハラを訴えられた加害者とされる方々のお話を聴いてみるとよく解ります。皆さん一様におっしゃいます。「指導の一環だった」、「部下を育てる為だった」、「本人の為だった」、そして何よりも「パワハラ行為なんてした覚えはない」のだそうです。反対にハラハラが問題にされることもあります。少し厳しく注意されただけで、パワハラだ、モラハラだと騒ぎ立てる方です。ご本人に言わせれば、「自分がパワハラと感じればパワハラ」なのだそうです。

そうなのです、何をパワハラだと思うかは、人によって違うのです。パワハラに対する価値観は人それぞれなのです。この、考えてみれば至極当たり前の点に着目しなければ、パワハラ防止などできません。

パワハラ対策研修の必要性

職場のパワーハラスメント対策マニュアルでも、定期的なパワハラ対策研修の実施が推奨されています。皆さまの会社では、パワハラ防止の研修会はもう実施されましたでしょうか。まだの企業様は、いつ行う予定ですか。まさか、研修を行わないなんていうことはありませんよね(わざと大げさに驚いてみます)。結論から申し上げれば、研修なしにパワハラ対策・パワハラ防止はあり得ません。

しかしながら、なぜ、何のために研修を行うのでしょうか。皆さま想像してみてください。おそらく皆さまのその想像は、少し間違っています。そうです、「法律で義務化されたことだし、パワハラはやめましょう」と社員の意識改革を促すために研修を行う…訳ではありません。ハラスメント研修は、道徳の時間ではありません。そもそも、大の大人の考え方や価値観を変えることなど、誰にもできませんし、研修にそんな力はありません。

それでは改めて、何のために研修を行うのでしょうか。パワハラとは、なにか性格の悪い酷い上司が部下をいじめているようなイメージで捉えられがちですが、実はそのような問題上司のケースの方が稀で、実際には「パワハラをしている意識がない」、「自分がパワハラをしているとは思っていない」ケースが殆どです。だから研修を行って、人それぞれに異なっているこの価値観(パワハラの基準)を統一化してあげる必要がある訳です。私は研修の目的の8割以上はこれだと思っています。

交通違反の取り締まりを例に

例えば、制限速度の決まっていない道路があったらどうなるでしょうか。小学生が下校中のある通学路を、自動車が40キロで通り過ぎていきます。保護者がスピードの出し過ぎで危ないと注意しました。しかし、運転手はこの道幅なら、40キロくらい出しても安全だと反論します。これではトラブルになりますし、制限速度が決まっていないので、どちらが正しい(悪い)とも言えません。
 
しかし、初めから30キロ制限と決まっていれば、40キロ出せばルール違反(違法)ですし、30キロで走っているのに文句を言えばルール違反になります。運転手も保護者も制限速度が30キロであることを知っている。そのあらかじめ決められたルールに違反している、だから悪い、だからやめてね、と言える訳です。

研修で何を話すか、何を学ぶのか

パワーハラスメント対策研修レジュメは様々に作成されており、厚生労働省のホームページからも無料でダウンロードできます。どれでも構いませんので、ハラスメント対策のレジュメをよくご覧になってみてください。厚労省や労働法が定める「パワハラとはこういうことだ」、という具体的行為の内容が、ご丁寧に類型分けまでして、しっかりと書いてあります。
 
つまり、研修を行って、それを社員の皆さんに周知させる訳です。(実際には覚えていなくても、知っているはずだという体裁を整えられれば良い訳です。)「研修会でパワハラとはどういう行為か勉強したよね、あなたはそれをもう知っているよね。それなのにあなたはそれに当てはまる行為をしているよね。それはダメだよ」或いは「パワハラだと言うけれど、研修会で勉強したパワハラには当てはまっていないよね」と言えるようにするための研修なのです。つまり研修の最大の目的は「私はパワハラをした覚えはない」、「自分はパワハラだと感じた」を主観で言わせないようにすることなのです。それぞれの価値観でパワハラかどうかが決まるのではなく、統一したルール(法律・制度・基準・定義)の下で、そのルールを破った場合は処分するよ、という前提ができて初めて、パワーハラスメント対策はスタートすることになります。
 
もちろん研修会を開いてもハラスメントは発生します。しかし発生したら、統一したルールの下で、その都度きちんとした指導・処分(処分と言っても、口頭注意から重いものまでありますが)を行っていくだけです。「いじめはやめよう」、「交通ルールを守りましょう」ではいじめも交通違反もなくなりません。残念ですが、交通違反をすると切符を切られる、罰金をとられる、だから違反しないように注意する、現実にはそういうことなのでしょう。それと同じことです。ハラスメントが起きたら放置しないで、その都度処分することで、処分されるからハラスメントに注意しよう、そうなることでようやくハラスメントを減らしていけるということになるのではないでしょうか。

 

いかがでしょうか。
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