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今回は、問題社員への対応にテーマを絞ってお話してみたいと思います。
労務管理上のトラブルは慎重な対応が必要な場合も多いということは、「労働トラブル相談」の項目で述べました。しかし、問題社員への対応は別です。問題社員を放置しておくことは、会社にとって大きな損害になり兼ねません。
近年言われて始めてきた、モンスター社員という言葉にもあるように、人手不足で多くの企業が人材確保に苦労している中、実際にどんな人物なのか雇ってみなければ分からない、という現実もあるようです。
モンスター社員には、素早く適切な対応が必要(対応は早ければ早いほど望ましいです。)ですし、放置しては絶対にいけません。
それではなぜ、問題社員を放置してはいけないのでしょうか。 会社の利益のためでしょうか? 社長が困るからでしょうか? それでは社長が我慢すれば済む話なのでしょうか?
それは違うと思います。もっと大切な理由、それは他の社員が迷惑するからです。優しい経営者様ほど、社員を非難したり処分したりすると、自分が何か相手に悪いことをしているんじゃないか、申し訳ないことをしているんじゃないか、という気がして対応にブレーキが掛かってしまう、という心情に陥り易いようです。
しかし、問題社員の方に気を使っている場合なのでしょうか。問題社員にどう思われるかよりも、その問題社員を他の真面目な社員たちがどう思っているのか、物言わない無言の社員たちがそんな会社を見てどう感じているのか、の方が余程大事だと思うのです。社員たちは、会社が自分たちの方を向いてくれているのか、ちゃんと見ています。社長様は誰に優しくありたいですか。問題社員に優しく、真面目な社員に厳しくありたいですか。
初めから問題社員という人は、実はそれほど多くありません。私的な悩み(男女問題・病気・事故・家族間のトラブルなど)や業務上の問題(仕事の過剰負担・成果が出ない・長時間労働・認識のギャップ・評価に不満・上司との関係など)が少しずつ積み重なって問題社員に変わっていくと言われています。
[問題社員の兆候例]
①時間や締め切りにルーズになっていく。
②いつも言い訳が多くなっていく。
③仕事の質が低下していく(最低限の事しかしない)。
④自己評価と他者評価の乖離が大きく、会社や上司への不満を周りに口にするようになる。
⑤会社のミッションや理念、価値を信じていない。
⑥退社時間が近くなるとさっさと片付けに入る。
⑦デスクや持ち場を離れることが多くなる。
⑧会社の他のメンバーと仲良くしなくなる。
問題社員になってしまった社員に対応する(問題社員でなくす)よりも、問題社員予備軍の段階で予防対応する方が、すっと容易であることは言うまでもありません。問題社員になってしまうかも知れない兆候が表れたら、放っておかないで、上司として(場合によっては会社組織として)きちんとフォローしてあげること、問題社員を生み出さないための基本はこれに尽きると思います。
ハラスメントに関する相談窓口の設置が中小企業にも義務化されましたが、プライバシーに配慮しつつ、雇用に関する悩みや業務についての悩み(あの人最近、勤務態度がおかしいですよといった匿名での通報等も含む)も兼ねた相談窓口を設置するのも、問題社員予備軍の発見や対応に有効かも知れません。
[目的]
①言動・勤務態度を改めさせること(注意・指導は単なる手段であって、最終目的はあくまでもこれです)
②証拠・実績の確保(労働審判・裁判対策)
よく社労士は「今後のことを考え、注意や指導をした証拠を残しておいてください」とお話しします。しかしそれは二次的なもので、本来の目的は、処分の正当性や裁判の証拠づくりのために注意している訳ではありません。本来の目的を忘れると、本音を見透かされて逆効果になってしまいます。
[心構え]
①逃げない
本当は誰だって注意したくはないです(注意する方も気が重い。下手に注意すると嫌な顔をされたり言い返されたりして気分が悪い。相手に対して何か申し訳ないことをしているような気持ちになる。面倒くさい。いずれ分かってくれるだろう、等。)。注意しないための言い訳など、いくらでも言えます。しかし嫌でも頑張って注意するのが、経営者・管理職の仕事であり義務です。注意しないで分かってくれる日など一生来ません。
②相手の言動に過剰反応しない 仕事としての行為なのですから、堂々とした態度で、心の中は冷静に注意してください。相手が何を言ってきても、仕事(業務)上必要な正しい行為として、淡々と注意すればいいと思います。
[覚悟]
①先延ばししない
注意・指導は鮮度が大事です。何かあったときにすぐに言われれば、何について注意されているのか明白ですし、この職場は問題を起こすとすぐに注意されたり、上に連絡が行ってしまうところだと認識し、問題行動の抑制に繋がりますが、間が空いてしまうと罪の意識も薄れてしまうので、問題社員は何を今更と、自分で問題を起こしておいて、注意された相手に不信感や反発心を持つようになります。また、その放置している間に、他の社員が迷惑を被り続けているということも忘れてはいけません。
②この注意・指導で解決するという覚悟を持つ
初めて注意・指導されました。しかし改善されませんでした。すると一度目で耐性ができてしまった問題社員を改めさせるためには、二度目はもっと強く注意しなければ効くはずがありません。さらにそれでも改まらなければ、次はもっともっと強く注意しなければならなくなります。つまり、最初から厳しい注意をしないで、中途半端な注意を繰り返すことで、問題社員は行動をますますエスカレートさせ、どんどん巨大なモンスターと化していくことになります。
問題社員対策は多くの会社で頭を悩ませており、社労士も懲戒処分や社員研修の実施など様々な提案をします。しかし、そもそも最初の注意で問題行動が収まっていれば、そのような難しい対応は必要がありませんでした。問題行動が収まらないのは、注意が足らなかったから、注意が相手に届かなかったからです。経営者や上司に、真正面から嫌になるくらい厳しい注意・指導を受けて、それでも態度が改まらないというような図太い神経の持ち主が、いったいどの位いるのでしょうか。問題行動をエスカレートさせ、強力になっていくモンスターに、嫌な思いをしながら長い間付き合っていくことになるよりも、その前に初期の段階で食い止めてしまった方がすっと楽だと思うのです。
[試用期間内に対応すればいいか]
『できれば試用期間のうちに対処したいので、アドバイスお願いします。』よくご相談いただきます。もちろん法令や雇用契約の内容を知っていることはとても大事ですし、ルールは有効に活用すべきだとは思います。しかし、本質はそこではありません。試用期間が3か月間だから、その間に対応しなければならない(その間に対応すればいい)のではなく、放っておくことにより、モンスターは日々巨大化し、問題行動をエスカレートさせ、他の真面目な社員やお客さんを一日一日蝕んでいく、ということが問題なのです。1分でも1秒でも早く対応しなければならない、ということを基本においておけば、期間を逃してしまうという問題も起こらないはずです。
以下に、実際にあった問題社員の事例をいくつかご紹介します。意外なようですが、どの事例も社労士ならば誰もが経験したことのある、会社あるあるです。ここに具体的にどう対処したかまでは詳細に書くことができないのですが、簡単な解説も併せてご紹介させていただきます。
[事例の内容]
ある建設会社では、長年の習慣から職場の風紀が乱れており、作業員たちの遅刻は当たり前、仕事中、やれコーヒーだタバコだと言っては頻繁に持ち場を離れたり、休憩時間でもないのに勝手に食事に行ってしまったりで、全く統率がとれていませんでした。(今までの上司が甘く、しっかりと注意できていなかったような場合です。)
新たに現場監督として赴任してきたAさんは、『何でこんなことを認めてるんだ!許してるんだ!?』と驚き、勝手に持ち場を離れていた作業員のひとりに注意をしたところ、案の定『何がいけないんすか?前の監督は何も言わなかったのに・・・。』
そこで、Aさんは作業員全員を集め、今までは許されたかもしれないが、これからは認められないという趣旨で、約40分間にわたり厳しく注意・指導を行いました。
翌日、そのことについて社長に文句を言いに行った従業員がいました。すると社長は(裏でたまたまAさんが聴いていることも知らず)、『Aも悪気があって言った訳じゃないんだから気にするなよ。Aもそのうちこの会社に慣れてくるよ。』
[結果]
冗談でも作り話でもありません。社労士にとっては、特に珍しいという訳でもない実話です。いったいどちらのフォローをしているのでしょう。社長の優しさでしょうか。でも真面目な社員には全然優しくありません。社長の姿勢や社風自体がモンスターを育てている典型的な例です。
その新任監督にとっては、作業員が言う事を聞こうが聞くまいが、本当はどうでもいいことです。作業員が怠けていようが、作業効率が悪かろうが、手抜き工事が行われようが、自分が困る訳ではありません。会社が困るだけです。せっかく会社のために変えなければと思い、気力を振り絞って注意・指導したのに経営者は怠けていた作業員の味方?
それなら、別にいいや。自分が損する訳じゃないし、放っておこう。その方が自分も楽だ!
こうして会社のために高い責任感をもって改革に取り組もうとしていた筈の、意欲に溢れた優秀な社員が一人姿を消し、ヤル気のない平凡な社員一人の誕生です。退職はしていなくても、会社は大切な人材を一人失いました。今までの現場監督も、初めはヤル気があっても、同じような経緯をたどったのかも知れません。
社内の悪しき風土を正すのに、管理職一人で戦っても勝てる筈がありません。そもそも人事労務管理は、経営者が中心となり会社全体が同じ方向を向いて行うものであり、管理職一人で行うものではありません。少なくとも注意・指導する人への経営者のバックアップがなければ(経営者があさっての方を向いていては)、初めから土台無理な話です。
[解説] 今まで注意・指導が不十分で許されてきてしまっていた場合は、注意するだけで反発を買ってしまいがちで、いきなりの重い処分も難しい状況にあります。「今までは許されたかも知れないが、これからは認められない」という旨をきちんと伝えたうえで、風土改善も含めて時間をかけて指導していくことになると思われます。
そして社長様自身の意識改革が最も大切になります。社長様自身が、社員に嫌われても構わない、という覚悟を持たなければ、このような改革は進みません。
[事例の内容] ある印刷会社でのことです。上司Bが勤務態度の悪い新入社員(中途入社で前職も印刷会社に勤めていた40代の新入社員)に注意したところ、パワハラだと周りの社員にも聞こえるような大声で騒がれました。
そこで、その日の勤務終了後、社長に相談したところ、
『揉めないで仲良くやれよ。』
『お前の言い方も悪かったんじゃないのか?』
『それを上手くまとめるのが、上司であるお前の役目だろ。』
『とにかくお前と部下の問題なんだから、そっちで解決してくれ。』、
上司Bは言葉を失い、黙ってその場を後にしました。
[結果]
これもネタ話ではありません。社労士が良く聞く実話です。事実をきちんと確認もせずに、パワハラと騒がれたこと自体を、その上司にも問題があると評価してしまった典型的な例で、実際にそんな経営者様が実に多いように感じます。何か表面上揉め事なくやっているように見えることが、管理能力の高さであると勘違いしているようです。丸投げですか。他人事なのでしょうか。お前と部下の問題ではありません。社員が上司の命令を聞かないのは、会社組織の大問題です。
その上司にとっては、その部下が言う事を聞こうが聞くまいが、本当はどちらでもいいことです。淡々と自分の仕事だけをしていればいいのですから、その方が楽ですし、自分が困る訳でもありません。会社が困るだけです。せっかく会社のためにも本人のためにもこのままではいけないと思い、気力を振り絞って注意・指導したのに経営者に他人事のようにスルーされた?自分が悪い?
それなら、別にいいや。自分が損する訳じゃないし、放っておこう。その方が自分も楽だ。
こうして会社のために高い意識と使命感をもって職務にあたっていた筈の意欲溢れる優秀な社管理職が一人姿を消し、ヤル気のない平凡な管理職一人の誕生です。退職はしていなくても、会社は大切な人材を一人失いました。(何かデジャヴを感じます。)
学校のいじめ問題と一緒ですね。うちの学校にいじめはないと言い張る校長が優秀なのか、隠れたいじめを見つけ正直に教育委員会に報告し、対処に努める校長が優秀なのか…。きちんと注意・指導する上司を評価し支援する体制がなければ、真っ当な労務管理、人材育成など成り立ちません。
[解説]
まずは事実確認により5W1H(問題行動の内容、何月何日の何時頃、どこで、誰が、何を、どうして、どのように行ったのか)を確定することが先決になります。これにより、会社が何を怒って、何に対して注意指導をしているのかの整理にも繋がります。そしてその事実を評価した結果、新入社員に問題があればきちんと注意・指導することが必要ですし、管理職の発言をパワハラの定義に照らし合わせ、問題がなければ会社としてのバックアップを行い、もし問題があるようであれば管理職についても、きちんと注意・指導することが必要となります。
[始末書の取扱いについて]
事実確認のために、本人に「事情聴取」で聞き取りを行ったり、「事情説明書」を提出させることも考えられます。その際に「事情説明書」の代わりに「始末書」を提出させるとどうなるでしょうか。
記載内容は同じでも、この名称だと懲戒処分の一種ととられ、これ以上の注意・指導や処分ができなくなってしまう恐れがあります(二重処罰の禁止)。あくまでも事情説明書は、その内容を踏まえて懲戒処分にするかどうかを決定するという、処分の前段階の書面です。
[パワハラについて(本人がパワハラだと感じたらパワハラ?)]
昨今、『被害者がパワハラだと思ったらパワハラ』、『本人がパワハラだと感じたらパワハラ』とかいう、あり得ない都市伝説がまことしやかに流布されていますが、そんなことはありません。労働基準監督署も裁判所も『本人がどう感じたか』とういような、抽象的な根拠でパワハラの有無を判断する訳ではありません。
もちろん、他にもっと言い方があったとか、こう言った方が望ましかった、ということはあると思います。だからといって、それが直ちにパワハラとして違法(不法行為)になる訳ではありません。当り前です。しかし厄介なのは、この『本人がパワハラだと感じたらパワハラ』という迷信を信じ込んで、騒ぎ立てる社員が実際にいるということです。経営者がこの迷信を信じて注意や必要な指導ができなくなれば、会社組織は成り立たなくなってしまいます。
職場のパワハラに当たるかどうかの判断は「平均的な労働者の感じ方」(社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか、つまり普通の労働者ならば、業務に差し障るほどのパワハラと感じるかどうか)を基準にするとされていますが、難しい定義よりも、要はなぜそのような言動(注意の仕方)をしたのかの業務上の必要性(理由)を説明できるかどうか、に尽きると思います。同じような問題行動を再び起こさせないために、あるいは業務上もっと適切な行動をとらせるために必要な発言であると説明ができれば、違法とはならない訳です。もちろん、暴力、人格否定はいけません。
[事例の内容] ある会計事務所の職員の話です。Aは有資格者で能力自体は高かったのですが、いつもイライラした感じで、上司から指導や注意を受けると睨み返したり適当に返事をするなど、反抗的な態度が目立ち、他の社員からは、陰で会社や上司を悪口ばかり言っているという報告も入っていました。また、周りの社員を見下し暴言を吐くこともしばしばで、そのことで精神疾患になる社員が出るなど、職場の雰囲気や就業環境にも悪影響が出ていました。
この会社はそれなりにやることはやりました。社長も上司も何度もAを呼び出して注意しましたが、一向に改善しません。業務改善命令に対する誓約書へ署名や、始末書の提出命令を出しても、それすら拒否するという有様でした。業務上戦力にはなっているので無下にはできない、しかしこのままでは周りの社員も疲弊してしまい、看過することはできません。どうすればいいのでしょうか。
[問題の所在] そもそもAのような言動をする社員は、「自分の評価や待遇に不満がある」、「私はこんなにやっているのに会社は認めてくれていない」、「上司を認めていない」、「上司に不満がある」、「周りの社員を見下している」といった傾向がり、自分は正しいと思っていることが多いです。だから、注意してもやめません。(不満の感情を周りにぶつけることで精神のバランスを保っている面もあるので、なかなかやめられません。)
従って、この反抗的な態度や暴言の原因となっているそもそもの感情を和らげてあげる必要があります。行為自体の是非とは別に、正しくはなくても、理不尽な意見であっても、まずはAの話を聴いてあげることが重要です。話し合いを通じて、何に不満があり、自分はどうしたいと考えているのかを丁寧に聴いてあげることで、Aの感情も整理され、自分の言動が単なるうっぷん晴らしに過ぎず、反って問題の解決をより遠ざけてしまっているということに気づくこともあります。
[始末書を提出してこなかったら] 始末書提出命令違反を理由に再度懲戒処分を課すことはできるでしょうか。これは専門家でも意見が分かれています。判例も統一されていませんが、「同じ行為に対して二重に処罰することはできない」という、一事不再理(二重処罰禁止)の原則に抵触するという判断の方が多い気がします。また、あまり謝罪や反省を強要すると、憲法上の思想・良心の自由の侵害と捉えられかねません。
私は、無理に始末書や反省文を書かせたり、誓約書に署名させたりする必要はなく、また、それを拒否したからといってさらに処分を課す必要はないと思っています。なぜなら、始末書提出命令等を出した時点で懲戒処分は確定しており、提出があったかどうかで処分の効果や処分の実績は変わらないからです。
[解説]
Aのような社員は、自己顕示欲が高かったり、自己評価が高かったりするので、会社としても扱いにくくはあるのですが、実際に能力は割と高いという社員の場合が多いので、会社として辞めてもらっては困るのか、どうしても改善されなければ解雇も辞さないのか、により対応も変わってくると思われますが、辞められたくないので放置という対応だけは絶対にいけません。そのことで、周りの社員の就業環境が著しく害されていること、周りの社員が精神的に疲弊し、生産性やモチベーションが落ちてしまっているという事実は軽くありません。
心情を聴いてあげても、会社としてできる対応や改善をしてあげても、言動が改善されなければ、就業規則に則って、事案ごとに5W1Hを明確にしたうえで、懲戒処分を積み重ねていくというのが正攻法になります。それでも改善されなければ、将来的には退職勧奨や解雇もやむを得ないかも知れません。
[事例の内容] ある製造業の社長様から電話が入りました。
『うちで25年以上勤めている副工場長で、俺も今まで散々注意してきたんだけどねぇ。勤務態度が、全然直らないんだよ。どうにかならないかな?』
「今まで散々注意してきたのに直らなかったのなら、これからも、散々注意しても直らないじゃないですか、社長!」(と心の中で突っ込みを入れる。)
『それで、どれほど散々な注意や処分をしてきたんですか?』
『事あるごとに注意してきたんだよ。』
『記録は残っていますか。今まで何回くらい注意してきたんですか?』
『記録はないけど、2、3回かな…。』
『えっ、それだけですか?25年間で2、3回?』
『・・・・・・・・。』
[問題の所在] このケースは上の2つの問題社員要素をも併せ持つ、最も厄介なパターンです。今までは、問題が起きた時にどのように対応するかが中心でしたが、今回はそれが長年にわたり何となく看過されてきた、という場合です。ベテラン社員なだけに、高給取りだったり、地位の高い管理職だったりするケースが多いのも特徴で、それが問題を一層難しくしています。
これは会社七不思議のひとつなのですが、昔から問題の多いベテラン社員だと社長様が言うので、さぞかし窓際に追いやられているのだろうと思い詳しく聞いてみると、なぜかかなり高い評価が与えられていることが非常に多いのです。役職にも就き、毎年順調に昇給もしていますし、賞与も毎回支払われています。どこにも問題社員らしい形跡は見当たりません。社長さん、これ、どうみても完全に優秀な社員ですよ。
[結果] 問題社員であるならば、問題があるに相応しい評価がなされていて然るべきですが…、なぜそうなっていないのでしょうか。
『下手に低い評価をつけると文句を言われそうだから。』
『毎年昇給しないとうるさいんだよ。』
『一番の古株だから役職に就けない訳にはいかない。』
『賞与も給与の一部だから…。』
『まあ、付き合いも長いし…。』
こうして会社はゆっくりと時間をかけて、大切に大切に巨大モンスターを育て上げていきました。しかし、ベテラン問題社員の悪影響の大きさは、他の問題社員の比ではありません。
『あんな上司の下では、やってられないよ。』
『あの人の方が自分より評価が高いのか。』
『あの人が許されるのに、何で自分たちだけ我慢しなければならないんだよ。』
『あんな上司をのさばらせておく会社なんか辞めてやる。』
『あの人が辞めないのなら、私が辞めます。』
まだ、言ってくれればいい方です。黙って会社を去ってしまった社員はいかほどでしょうか。真面目にやっても評価が変わらない他の社員の心中はいかがなものでしょうか。
[解説]
実際の判例では、長年にわたりそれなりの評価を受け、大した処分もなかった社員に対し、解雇はもちろん、急に大幅な降給や降格をすると、辞めさせる目的で不合理に評価を下げたと評価され、違法と判断されてしまう傾向にあります。従って、生命・身体に関わるなど緊急性を要する重大な違反行為でない限り、問題が大きくても就業規則に則って、一から懲戒処分を積み重ねていくのが正攻法となります。
ただし、一から積み重ねていくとは言っても、いきなり解雇などの重い処分はできないというだけで、厳しく注意・指導することはできます。今まで注意してこなかったからと言って、これからも注意してはいけないという訳ではありません。繰り返しになりますが、そもそも何度も厳しく注意・指導し、懲戒処分も繰り返したのに、一向に態度が改まらず、辞めてもいかない、とういう人は滅多にいないのではないでしょうか。
ベテラン問題社員は、「どうせ今までと同じで厳しくは注意してこないだろう。」、「今まで通り何を言われても無視していれば、そのうち注意が止むだろう」と思っているのですから、その上を行けばいい訳で、必要なのは注意、処分する側の本気度と覚悟です。ある意味では持久戦のようなものなので、先にこちらが面倒になって諦めてしまわなければ、解決も見えてくるのではないでしょうか。
[事例の内容]
ある会社の社長から電話が入ります。
『悪いんだけど、1名退職手続してくれない。』
『分かりました。いつ付けの退職ですか?自己都合ですか?離職票は要りますか?』
『いつだろ?離職票は・・・、要らないんじゃないかな。』
『ご本人に確認してください。』
『いや、本人会社に来なくなっちゃったんだよ。この間、注意したら不貞腐れてそのまま出て行っちゃって、それから来てないんだよ。』
『えっ!?連絡は取ったんですか?』
『いいや、取っていない。このまま辞めてくれた方が助かるし、他の社員も一緒に働きなくないって言ってるんだよ。下手に連絡して、会社に出てこられても困るしね。』
『それでは、解雇するんですね?』
『解雇じゃないよ。勝手に来ないんだから、自己都合だろ?』
『社員が無断で会社を休むことは、まあ、あり得ます。その時に、心配もせず、連絡を取ろうともせず、退職届が出ている訳でもなく、本人の意思も確認しないで、会社の判断で勝手に退職手続をしてしまう、これ、解雇以外に解釈のしようがありません。あとで本人から不当に解雇されたと訴えられたら、確実に負けますよ。』
『・・・・・・・・・・・・・・。それじゃあ、どうすればいい?』
『連絡を取ってください。』
『(電話をかける。)出ないな。(留守電にメッセージを入れる。)これでいい?』
『これからも、もっと電話をかけてください。』
『どのくらい?』
『毎日です。』
『毎日?なんでそんなに?』
『だって、社員が無断で休んでいて、その理由が分からないんですよ。例えば、係長の鈴木さんが無断で会社を休んでいたら、社長さんは心配で毎日電話を掛けますよね。それと同じことをしてください。』
『・・・・・・・・・。それで連絡が取れちゃったら?』
『意思を確認してください。』
『会社に来るって言われちゃったら?』
『仕方がありません。このまま雇い続けてください。ただし、無断欠勤は懲戒処分の対象にはなります。』
[結果]
これも、本当によくある実話です。
裁判所の判断はこうです。
何度も連絡して出勤を促す⇒解雇した人にそんなことはしない筈だ
全く連絡を取ろうとしない⇒解雇したから(来て欲しくないから)連絡を取らないいのではないか
つまり絶対に放って置いてはいけないということです。
立腹して出て行ったまま出勤しなくなった社員を、連絡もしないで放置したまま退職手続をとった場合、解雇無効と解決金の支払いを命じられる恐れがあります。ましてや、注意した際に口が滑って、「うちではやっていけないよ。」とか「もう来なくていい」などと言っていた場合には、さらに不利になります。
[解説]
必要な対応として
①繰り返し電話をかけて出社を促すなど 欠勤者に対する通常の対応をする
②社員の意思が不明確なまま欠勤を続ける場合は、電子メール・書面等の証拠に残る方法を用いて意思確認する
意思確認が取れればその意思に従い、それでも連絡が取れない(返答がない)場合には、就業規則の定めに則り、一定期間連絡が取れないことを理由として退職処理します。
[就業規則規定例]
第〇〇条(退職)
社員が、次の各号のいずれかに該当するに至ったときは退職とし、次の各号に定める事由に応じて、それぞれ定められた日を退職の日とする。
(1)本人が死亡したとき 死亡した日
(2)定年に達したとき 定年年齢に達した日
省 略
(8)欠勤の連絡はあったが、その後出勤せず、留守番電話、手紙やメモ等の文書、メール、伝言などにより再三、出
勤や連絡を督励したにもかかわらず、最後の連絡日から連続して30日以上応答がないときで、解雇手続をとら
ない場合 30日を経過した日
[事例の内容]
この事例は、上記5つの問題社員とは性質が異なります。業種によっては人手不足などの理由から、人員確保の必要性が高いと、応募者の能力が低いことに気づいていながら、採用してしまうことがあります。
『全然経験のない素人だけど、真面目そうだから雇ってみるか。』
『ちょっと難しい気がするけれど、あの人の紹介だから仕方ないか。』
『本当なら採用基準に満たないが、一生懸命に努力するというのならチャンスをやろう。』
『性格は良さそうだから。』
能力が低いことを知っていながら採用する場合、最初は戦力にならないこと、難易度の低い仕事を準備して担当させるところから始めるなど、仮に人の何倍時間が掛かっても、一から育ててあげるという覚悟が必要になります。
[結果] 『やっぱりあいつダメだったよ。でも試用期間中だから、辞めてもらえるでしょ。初めに本人にも、本当なら採用基準に満たないから不採用だけれど、可哀想だからヤル気を見込んで様子見で雇うと言ってあるし、本人も納得してくれるでしょ。』
『いいえ、そう簡単には辞めてもらえません。』
試用期間中に解雇できるのは、「労働契約で予定されていた能力」が無かった場合です。優秀な人材だと思って雇ったのに違った、は仕方がありません。見る目が無かっただけです。でも、今回の場合は、能力が低いと分かっていたんですよね。しかもそれをご本にも伝えています。能力不足による解雇は、そもそも試用期間中といえどもかなりハードルが高いのに、能力が低いと思っていた人がやっぱり能力が低かった、というのは予定通りであり、何も錯誤がないのに解雇できるとというのは、いったいどこから出てくる理屈でしょうか。
可哀想だから、ではありません。能力不足と一度否定をしておいて、それでも雇ってやる(頑張ればモノになる。)と期待させておいて、大して指導も教育もしていないうちに、やっぱり能力が足りないから辞めてくれと、二度も能力を否定することの方が余程可哀想です。
[能力不足による解雇について]
正社員の解雇よりは試用期間中の解雇の方が、若干ハードルが下がるとはいえ、試用期間か否かを問わず、体調不良や勤務態度等の不良がある訳でもない、単に能力の低い社員(本人は普通に働いているつもり)を、解雇することはできるのでしょうか。努力不足、勉強が足りないなどを理由に解雇できるのでしょうか。
そもそも能力不足により解雇するためには、きちんと基準や目標を明確にした業務改善命令を出し、十分な指導や教育・研修を行いその記録も残し、一定期間経過後に業務改善されているかどうかを評価して、改善されていなければ再度業務完全命令を出して、指導や教育・研修を行い、一定期間経過後それを改めて評価するという過程を何度か繰り返し、可能であれば業務変更や配置転換なども行い、それでもどうしても改善されないという場合にはじめて「改善の見込みなし」として解雇が有効になる可能性が出てくる、これが判例の考え方です。
私は、この条件をクリアできる(ここまでできる)会社は、日本にはほとんどないと思っています。そもそもここまでの教育体制を整えられる会社であれば、社員の能力不足の問題など生じないのではないでしょうか。従って、能力不足による解雇は極めてハードルが高いと言え、どうしても辞めてもらいたいという場合には、現実的には退職勧奨や合意退職などの話し合いによる解決に拠ることになると思われます。
[解説] 能力不足と分かっているならば、初めから不採用にして、他の自分に合った会社を探してもらうことの方がむしろ本人の為ですし、もし雇うのであれば、一度雇ったからには能力が低くても我慢強く雇い続ける覚悟が必要、ということになるのです。
会社は社員を使って利益を出して儲けているのだからいるのだから、一度雇ったからにはきちんと責任を持ちなさい、これが労働法の考え方です。雇った以上は、本気で教育・指導を行って育ててあげてください。目標を設定し、ノルマを課し、何度も何度も面倒くさがらずに、しつこいくらいに教えてあげてください。その指導に頑張ってついて来ることができれば、戦力になっていくでしょうし、無理だと思えば自ら進退を考えるかも知れません。また、毎日業務日報を提出させることで、客観的に自分の仕事を見つめ直すこともあります。ただし、辞めさせる目的での厳しい指導(日報をチェックして何度も書き直させるなども含む)は、絶対にいけません。あとは、能力に見合った評価をきちんと下すことです。
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